本のこととか2015

今年も残すところ僅かですね。
去年も、その年に読んだ本のうち特に気になったものをまとめていたので、今年もいろいろまとめてみたいと思います。

建築

堀部安嗣作品集: 1994-2014 全建築と設計図集
堀部安嗣作品集: 1994-2014 全建築と設計図集
堀部安嗣氏の作品集。初期作から2014年のものまで、写真だけでなく図面、しかも平面図だけでなく矩計図も掲載されている。
氏の住宅建築は、体験したことのないような新しい空間というわけでも、これまで思いもしなかった新しい素材や高度な構造計算に基づいた建築というわけではない。
一つ一つの寸法の取り方や、ありふれた素材のディティールの細やかさ。そしてそうしたディティールから産まれる空気。
僕自身が、プランの途中ふと立ち止まる時に、いつもデスクの脇に置いて眺める本の中の一冊。
今年、岐阜高専で高校二年生にあたる学年の子達に教える機会を得た。その授業中、「雑誌の写真を見て、「かっこいいな」とか「すごいな」で終わらないように、きちんと図面を読み取ってその写真が図面のどこから撮られたものなのか意識しながら雑誌を読みましょう。」みたいな話を偉そうにした。
木造を学ぶ、若い学生さん達にもぜひ読み込んで欲しい良書。

社会

境界の民  難民、遺民、抵抗者。 国と国の境界線に立つ人々
境界の民 難民、遺民、抵抗者。 国と国の境界線に立つ人々/安田峰俊

境界の民。
タイトルの通り、国家や時代、さまざまなものの境界に棲む人々を追うルポ。
元々はアジアでの難民について少し知っておこうと手に取った本だったが、難民についての記述は前半のベトナム難民の一章で、その他はそれほど関係がなかった。
が、僕は途中から読むのが止められなかった。
前述のベトナム難民、日本に住むウイグル人、出自を大陸にもちながら故郷を日本だと感じる在日二世の人々、大陸で上流階級の家に産まれながら歴史に翻弄され上海で日本人向けの売春宿を経営する老人、そして国際的に国家と認められず中国との境界にありながら凛とした姿であろうとする台湾の若者たち。
国(States)を棄てても故郷(Country)が無くなるわけではない。
そんな当たり前のことさえ、僕は知ろうともしていなかったのだと目の前が真っ暗になる。
できるだけ多くの人にぜひ、読んでほしい。
今年、一番頭を殴られたような衝撃を受けた一冊。

食の終焉
食の終焉/ポール・ロバーツ
ノンフィクション。特に海外のサイエンスや社会ノンフィクションは徹底的な取材に基いて書かれる事が多く、この本もそんな一冊で、読み切るころにはお腹いっぱいと共に絶望的な気持ちにもなる。
アグリカルチャーからアグリビジネスへの返還、化学肥料の登場と人口爆発補助金漬けの農家、ネスレウォルマートを始めとする食を抑える企業の光と影、肥満化に南北問題に食品汚染、食肉の功罪、そして‥大手企業に食い物にされる「オーガニック」ビジネス。これでもかと、食にまつわる問題に切り込んでいく。
地産地消」や「オーガニック」などという耳障りの良い薄っぺらな流行など、吹き飛ぶインパクトを与えてくれる。
最後の章で、著者が「持続可能な農業」かもしれないとして可能性を見出すのが、日本の循環式生産モデル。
しかしそれさえも、実際のところ60億人を養うキャパシティは無いことは認めつつ、ひとつの希望として最終章にかかれている。
ここ数年、食にまつわる本をいくつか読んでいるが、そのどれもが現在の食料生産が限界に近いことを示している。僕達は今どういうものを食べ、また今後、何を、どう食べていくのか。きちんと知り、考え続けていきたい。

小説

天冥の標? メニー・メニー・シープ(上)
天冥の標? メニー・メニー・シープ(下)
天冥の標/小川一水
昨年に引き続き、小川一水。去年は尻込みしていた長編シリーズに手を出しました。
パラオで突如パンデミックを起こした致死性の伝染病、冥王斑。奇跡的に生き延びた保菌者達はしかし、未だ感染力を残しているため1箇所に集められ管理される。この奇病を主軸に現代から太陽系辺縁までの人類反映の時代、恒星間航行での開拓時代を経て、辺境開拓星でわずか生き延びる人類黄昏の時代まで800余年を書ききる長編。全10巻を予定し既刊9巻まで。
各巻ほとんど別の小説と言っていいほど、ストーリーに繋がりはないためどこから読んでもそれなりに楽しめるように構成されているが、読み進めるにつれておぼろげながら見えてくる冥王斑の正体、開拓星での黄昏に至る因果にもう、ワクワクするしかない。

映画

鳥の道を超えて
岐阜県東濃地方で行われていた、かすみ網猟。
監督の祖父は子供の頃、かすみ網猟を行う鳥屋(とや)で鳥の道を見たと言う。
現在では法で禁止され、一部の研究者のみが行うかすみ猟を取材し鳥屋の痕跡をたどる。
そして、「鳥の道」とはなにか。
ラスト映し出されるとある石碑のシーンを前に、共生について考えさせられました。
地元岐阜での凱旋上映とのことで気になり劇場まで足を運びましたが、とても上質なドキュメンタリーに仕上がっていました。
そして‥ツグミ食べてみたい!(現在では違法です)

コミック

写真屋カフカ (ビッグコミックススペシャル)
写真屋カフカ/山川直人
「消えゆくもの」を専門に撮る写真屋カフカ。確かに現代が舞台なのだけど、どこか昭和のような匂いの残る町で、様々な人やモノを写真を通してみつめていく。
商店街のすみっこの旧い喫茶店、窓際の席で外行く人を見ながら飲む、深入りのコーヒーみたいな漫画。
著者のコーヒーもう一杯も何度も繰り返して読む、すばらしい漫画。ぜひご一緒にどうぞ。

アニメーション

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SHIROBAKO
アニメーション製作会社を舞台に、「制作進行見習い」「原画マン」「声優志望」「脚本志望」「CG担当」それぞれの主人公達が右往左往するお仕事コメディ。
とかくブラックと伝え聞くアニメーションの製作現場を、軟硬おりまぜ絶妙なバランスで描いていく。
描いても描いても描いても納得がいかない絵、やりたかった仕事と現実のギャップ、クライアントからの無茶な要求、どんなに努力しても破れない(ように見える)壁。
モノを作る仕事をしている人ならば、他業種でも「あるある!」と共感してしまうようにディフォルメされている。
主人公たち新人に立ちはだかる「自立したクリエイターの大人」として登場する木下監督も、人間としては本当にダメで。それでも作りたいモノから決して逃げない姿勢、他人にどれだけ負担を強いるかわかりつつより良くなると判断すれば土壇場での変更も辞さない執念。
物語自体は荒唐無稽でいかにもアニメーションといった演出も多いけれど、それでも最終話は涙無しには見られなかった。マーヴェラス!


というわけで今年もいろいろ読んだけど、映画や映像もチョイスに入れてみました。
また少し蔵書の整理もしたので、来年も買い足せる。そして、Kindleヤバい。
それではみなさま、よいお年を!