本のこととか。

2013年も残り1日。今年もたくさんの方に支えられなんとか生き延びることができました。
さて、その人の本棚を見ればその人のひととなりがわかるとはよく言いますが、今年読んだ本の中から、各ジャンル個人的に偏ったチョイスで選んでみました。

■建築
Helene Binet: Composing Space: The Photographs of Helene Binet
Helene Binet:Composing Space:The Photographs of Helene Binet
建築写真家ヘレネ・ビネトの写真集。ズントー、ザハ、リベスキンド等、欧州の名だたる建築家たち御用達のビネト。
全編モノクロのみの写真だけどめちゃくちゃカッコいい。

■小説
虐殺器官 (ハヤカワ文庫JA)
虐殺器官 /伊藤計劃
いまさら伊藤計劃。うっわ。すっげぇの読んじゃった。そんな感想。
その男が訪れる土地では、かならず虐殺が起こる。その真相を突き止めるべくうんたらみたいな近未来のミリタリものSF(?)
作者1974年生まれなのでほぼ同世代。もう少し生きていてほしかった。

■自然科学
命がけで南極に住んでみた
命がけで南極に住んでみた /ゲイブリル・ウォーカー
英国の自然科学系ドキュメンタリー作家。超行動派で実際に米国マクマード基地、ロシアのボストーク基地等各国の南極基地に乗り込んで取材を重ねる。
日本が氷床コアやオゾンホール研究で先進していたのは知っていたけれど、棚氷のメカニズム、ボストーク湖以外にも多く湖が発見されていて地下でつながっているらしい等、自分の南極に関する知識がずいぶん古いものだったことを知らされた。
しばらく南極関連はおっかけていきたい。

■社会
里山資本主義 日本経済は「安心の原理」で動く (角川oneテーマ21)
里山資本主義 /NHK広島取材班
高度経済成長以降、放置されている里山の資本をもっと積極的に使っていこうよ!てな話。
木質バイオマスからおばあちゃんの家庭菜園野菜まで様々に積極活用していけば、貨幣資本主義によって地域から都会へ流出するばかりだったお金を内部循環できる可能性を示す。
ただし、浅薄な自然原理主義とは一線をひいて、里山自体に日本を養うだけのキャパが無いことは前提で、比重をシフトする方向で。
311以降否が応でも考えざるを得ないエネルギーや食料の問題、脊髄反射のような議論に値するところまでいかないものも多いなか、大きく興味をそそられた一冊。

■写真
IMA(イマ) Vol.6 2013年11月29日発売号
IMA /アマナホールディングス
雑誌。現状Vol.6まで。
ソス、グルスキー、ギルetc‥現代写真を俯瞰して見せてくれる、僕みたいなぬるい写真好きには最適な雑誌。
最新号の荒木経惟とアレック・ソスとの対談。荒木「アタシはフィルムと被写体とを等価にしたいと思っているけど、君(ソス)はフィルムの向こう側を撮ろうとしている。それってつまりは彼岸ってことだろう?」しびれる。ただの変なオッサンじゃなかったのね。
グルスキー展、無理してでも行けばよかった‥。

■コミック
山賊ダイアリー(1) (イブニングKC)
山賊ダイアリー /岡本健太郎
3月のライオン乙嫁語りかとも思ったけれど、上記の里山資本主義と合わせて。
作者は漫画家兼猟師。ライフルや罠で野鳥やらシカ、イノシシを捕まえて食べる。時々農家に依頼されて害獣として駆除、そして食べる。
今年後半、ネットで「うさぎを狩猟して食べた」女性のブログが残酷だと炎上したけれど、僕自身はそれに大いに違和感を感じて、数人とそんな話をしてみたら大半の意見はそれは残酷でおかしいと言われて「あれれ?俺がおかしいの?」と思ったり。
生き物を殺して食べる。食材になってスーパーで買ってくる肉と狩猟した肉。そこにはプロセスをすっとばしただけで違いは無いとおもうのだけど。
食べること、食料のことを深く考えてみたいなと思わせてくれた一冊。

■エッセイ
母なる自然のおっぱい (新潮文庫)
母なる自然のおっぱい /池澤夏樹
おっぱい嫌いじゃないからな。
そうじゃなくて。今年はずいぶん池澤夏樹を読んだ。
池澤夏樹という作家はバランス感覚に溢れている(と思ってる)海外に住んで各土地から見た日本感、理系出身らしい理路整然とした語り口。その意見には同調するところが多数あってこのところずっと追っかけている。
このエッセイも書かれたのは1996年だからずいぶん前。池澤はこの頃から一貫して反原発で、今も公然と反原発を表明している作家の一人。
そこについてはデリケートな問題で、完全に同調するわけではないけれど、それでもセンチメントに基づく自然礼賛ではなくロジックを元に反証していく姿は、文化人としてのあるべき姿だと思う。
氏の小説のほうはぜんぜん読んでないです。ごめんね。


本を読めば知識は得られる。
ただし、知識と知恵は別物で。
それでも知識は知恵の種になると信じている。
来年も良い本に出会えますよーに。

それではみなさん、良いお年を!