疵痕

あっ!…そう思った時にはもうカメラは地面で一度バウンドして転がっていました。
油断していました。普段なら必ずストラップを握るところを、レンズを鷲掴みにしていたのです。

カメラの左肩から落下したようで大きく傷が入り、どこかの部品が割れたのかストロボは開きっぱなし、外装も隙間が大きく開いていました。
とにかくこれでは撮影もできないので、すぐに修理に出して先日ようやく手元に戻ってきました。

ピカピカになって戻ってくるのかな。

なんとなくそう思っていましたが、戻ってきたカメラには左肩に大きなキズがそのまま。
ストロボはもちろん治っていますし、光軸も調整、ローパスのクリーニングに、そんなものだろうと思ってたレンズとの通信不良も直されていました。
でも傷はそのまま。

「あ、この傷は直らないんだ。よかった。」

最近はなんとなく、モノは一度修理して、ようやく自分の手のうちに入った気がしています。
だから、この傷もそのままだったことが何かひとつの記憶というか印というか、そんな気がしてほっとしたのかもしれません。

ピカピカで傷ひとつない完成直後が一番よくて、あとはどんどん価値が落ちていく。傷や汚れは悪で忌むべきもの。
本当にそうなんですかね。
カメラの傷を指先で撫でながら、ぼんやりそんなことを考えていました。
もうしばらく頼むぜD90